キスダム 第二十四節 無眩 ヒガン
海上に響き渡るネクロダイバーと玲の叫び声。
そして燻京香は玲と融合したハーディアンの体の内側、その内奥から溢れる光を見る。
「あ…あれが…終焉の光…?」
光は世界中へと広がり――
◯
死者の書を突き立てられ、目を見開く狼騎さん、亜久里さん、冬音。
「な…なぜだ…」
その問いかけの先にいるのは…
「由乃…!」
◯
「ヴァ…ヴァルダ…俺は…死んだのか…?ここは、どこだ…」
まるで彼岸のような不可思議な世界をゆっくりと落ちていく哀羽さん。
しかしその疑問に不意に答える声が現れます。
「ここは無…」
「ここは無限…」
「ここはゼロにして極大の世界」
「ついにこの世界に到達する資格を得ましたね。伝承者…」
その声に対し、哀羽さんは口を開きかけますが、「『誰だ、どこにいる』…」と先回りをされてしまいます。「ネクロダイブした者の問い掛けは皆、同じ…」
ついに姿を見せた声の主。その姿は、玲のものと酷似していました。
「私はヴァリレイ…この世界の住人」
「ヴァリレイ…?お前が四人目のしもべか!?」
「そんな数字に何の意味がある?すべては私なのだから」
ヴァルダ、ヴァイレ、ヴァラールの姿を借り、彼に戦いを促すヴァリレイ。
「由乃を殺したのは私…由乃を生んだのも私…そしてあなたを生んだのも…全ては私が影なる無数の世界に『アレ』を放った結果です」
歪んだ空間を浮遊しながら謎めいた言葉で挑発するヴァリレイ。
「閉鎖された系においてはエントロピーは常に増大する…全宇宙を縛る法則。その法則に逆らう者、それが命…」
釈迦の手のひらの孫悟空のように、吐息一つで飛ばされていく哀羽さん。
◯
一方、現実の世界にはハーディアンの殻を破るようにして現れた巨大な、もはやハーディアンとも人間ともつかぬ姿の玲が出現。
「戦って戦って、我々は最悪の敵を作り出してしまったのかもしれない…」
ガルナザルまでもが弱音とも取れる発言をする中、胡乱であった玲の言葉が徐々に定まりを見せ、ついに行動を開始。
「私は生まれてきた目的を知った…!すべてをこの手に…!」
彼女の右手が掲げられると、瞬く間に黒い光が走る。
光は人々を黒い、死者の書から溢れる文字のような形に変えると、それら全てが玲の手へと寄せ集められていきます。
「すべての命は情報!私の生まれてきた目的はその収集と蓄積!」
人類側は黒い光に効果の見られるアフラーシステムを斉射、応戦しますが、もはや人類が滅びるのは時間の問題です。
◯
「命は他の命を喰らい、明日を生きる。闘争こそがその使命…生きることは常に戦うこと…常に血塗られた道を歩くこと…『あれ』に触れた知的生命体は互いに戦い、殺し合い…そして、最強のひとつだけが残る…それは次の世界に送り込まれ、どんどん強い生命体が生まれていく…」
落ちて行った惑星で別の星の伝承者の戦いの歴史を見せつけられる哀羽さん。
ヴァリレイに対し反撃のテイル=ボーンを放つも、あっさりと止められてしまいます。
「それが死者の書か!?」
「ある世界ではゾバル、ある世界ではシ・スラーム…あるいはシュラシュルク…バッハグルム…どう呼ぼうと目的はただひとつ」
「何のために!?」
「命を永遠にするため」
別の声。振り向いた哀羽さんはそこに思わぬ者を見ます。
由乃。
死んだと思われていた彼女に駆け寄る哀羽さんでしたが、いくら走っても彼女の座る玉座には近づくことが出来ません。
「あの葉陰より先は生と死を分かつもの…未だ生きて中に入った者はいない」
「由乃は死んでない!あそこにいるだろ!」
「死と生の折り重なった状態にある。永久の死であり、永久の生。その死だけを切り離すことができれば、その者は永遠に生きてゆける。そして…宇宙のあらゆる生命も…」
怒りを露に、テイル=ボーン、イグ=ソードでヴァリレイへ攻撃を仕掛ける哀羽さん。
しかしその手からはアヴホースの力の表れである鎧が消え去り、代わりにヴァリレイの傍らで大きな影が立ち上がります。
「目覚めよ、アヴホース」
「闘争心こそが永遠の命への道…すべての命は戦い、殺しあいながら強くなる」
「どけって…言ってんだよぉ!!」
「さあ、命を見せて」
◯
玲へ向かいコーティング剤を噴霧するも、パイロットの消滅によりあえなく墜落、その海域にいた乃亜も巻き込まれ、絶望に覆われるサラディン号。
離脱しようにも、もはや逃げる場所は世界のどこにもありません。
そんな中、ガルナザルが重々しく口を開く。
「たとえ、世界が滅びようとも…闇に没しようとも…命は必ず輝く!」
「それは希望?それとも夢?」
「いや…真実だ!」
艦長の言葉に勇気づけられ、微笑を口元にたたえるクルーたち。
「勝てば人類の勝利、負ければ死」。樹もシニカルに唇を歪ませます。
「諸君らの命、このガルナザルが貰い受ける!」
浮上し、玲の居る渦の中心へと突入を仕掛けるサラディン号。
が、そこへ背後から魚雷群が殺到。発射源は燻京香の乗る艦。そしてその進路は…サラディン号と同じく渦の中心です。
◯
アヴホースの圧倒的な力と対峙する哀羽さん。
一方的にやられながらも反撃のアイバーキック(脚本準拠)を食らわせますが、効果は薄く、テイル=ボーンの原型と思われる尻尾によって締め上げられてしまいます。
「もっと…もっと戦うのです。戦って戦って、戦い抜く…それが伝承者の使命。あの者を永久の死から切り離しなさい。そうすれば、あるいはあなたは由乃をもう一度抱きしめられるかもしれません」
「…由乃…!待ってろ…よ…!!」
その左腕からガトリング、そして魚雷を出現させる哀羽さん。アヴホースに直撃するも逆に左腕を食い破られます。
「絶望…絶望…絶望…」
襤褸切れのように地面に転がされる哀羽さん。
そんな彼をヴァリレイは無情にも「戦いなさい」と見下ろす。
「戦えないのですか?」
「由乃…必ず助けるから…!由乃…!」
「絶望…絶望…絶望…絶望…今度の伝承者もまた、絶望しかくれぬと言うか…」
ボロボロの体を起こす彼に、どこからとも知れぬ声が飛び込んできます。
「解き放て、哀羽」
「狼騎!?」
「解き放て、力を」
「亜久里か!?」
「哀羽さん…寒い…寒いよ」
「!?冬音…」
「無数の影のひとつずつ…皆、別世界でのお前だ…そして皆、私に絶望しかくれなかった」
「もう戦えぬのならば、死になさい」
背後から襲いかかるアヴホース。
必死の形相で戦うネクロダイバー。
「絶望…絶望…絶望…皆、絶望しかくれない」
◯
消えていく人々、そしてそれでも諦めずに抵抗を続ける人類。ネクロダイバー。
その中心で、京香は滔々と呟く。
「玲…あなたに教えてあげることは、もっとたくさんあった。風の柔らかさ、山の美しさ、海の広さ。この地球の素晴らしさ。そして、人のあたたかさ…」
「だけど、私が語ったのは、世界の終わりと、人類の滅亡――あなたが知っていたのもこのふたつ。これは私の贖罪…そしてあなたに教えたい最後の言葉。それは、希望。人はね、希望を失わない限り生きていられるということ」
海面を突き破り、玲の中枢へと飛び込む艦。
「これが私の最後の――」
「玲…」
つづく
おまけ
これプリクラみたいでなんかウケる
そして燻京香は玲と融合したハーディアンの体の内側、その内奥から溢れる光を見る。
「あ…あれが…終焉の光…?」
光は世界中へと広がり――
◯
死者の書を突き立てられ、目を見開く狼騎さん、亜久里さん、冬音。
「な…なぜだ…」
その問いかけの先にいるのは…
「由乃…!」
◯
「ヴァ…ヴァルダ…俺は…死んだのか…?ここは、どこだ…」
まるで彼岸のような不可思議な世界をゆっくりと落ちていく哀羽さん。
しかしその疑問に不意に答える声が現れます。
「ここは無…」
「ここは無限…」
「ここはゼロにして極大の世界」
「ついにこの世界に到達する資格を得ましたね。伝承者…」
その声に対し、哀羽さんは口を開きかけますが、「『誰だ、どこにいる』…」と先回りをされてしまいます。「ネクロダイブした者の問い掛けは皆、同じ…」
ついに姿を見せた声の主。その姿は、玲のものと酷似していました。
「私はヴァリレイ…この世界の住人」
「ヴァリレイ…?お前が四人目のしもべか!?」
「そんな数字に何の意味がある?すべては私なのだから」
ヴァルダ、ヴァイレ、ヴァラールの姿を借り、彼に戦いを促すヴァリレイ。
「由乃を殺したのは私…由乃を生んだのも私…そしてあなたを生んだのも…全ては私が影なる無数の世界に『アレ』を放った結果です」
歪んだ空間を浮遊しながら謎めいた言葉で挑発するヴァリレイ。
「閉鎖された系においてはエントロピーは常に増大する…全宇宙を縛る法則。その法則に逆らう者、それが命…」
釈迦の手のひらの孫悟空のように、吐息一つで飛ばされていく哀羽さん。
◯
一方、現実の世界にはハーディアンの殻を破るようにして現れた巨大な、もはやハーディアンとも人間ともつかぬ姿の玲が出現。
「戦って戦って、我々は最悪の敵を作り出してしまったのかもしれない…」
ガルナザルまでもが弱音とも取れる発言をする中、胡乱であった玲の言葉が徐々に定まりを見せ、ついに行動を開始。
「私は生まれてきた目的を知った…!すべてをこの手に…!」
彼女の右手が掲げられると、瞬く間に黒い光が走る。
光は人々を黒い、死者の書から溢れる文字のような形に変えると、それら全てが玲の手へと寄せ集められていきます。
「すべての命は情報!私の生まれてきた目的はその収集と蓄積!」
人類側は黒い光に効果の見られるアフラーシステムを斉射、応戦しますが、もはや人類が滅びるのは時間の問題です。
◯
「命は他の命を喰らい、明日を生きる。闘争こそがその使命…生きることは常に戦うこと…常に血塗られた道を歩くこと…『あれ』に触れた知的生命体は互いに戦い、殺し合い…そして、最強のひとつだけが残る…それは次の世界に送り込まれ、どんどん強い生命体が生まれていく…」
落ちて行った惑星で別の星の伝承者の戦いの歴史を見せつけられる哀羽さん。
ヴァリレイに対し反撃のテイル=ボーンを放つも、あっさりと止められてしまいます。
「それが死者の書か!?」
「ある世界ではゾバル、ある世界ではシ・スラーム…あるいはシュラシュルク…バッハグルム…どう呼ぼうと目的はただひとつ」
「何のために!?」
「命を永遠にするため」
別の声。振り向いた哀羽さんはそこに思わぬ者を見ます。
由乃。
死んだと思われていた彼女に駆け寄る哀羽さんでしたが、いくら走っても彼女の座る玉座には近づくことが出来ません。
「あの葉陰より先は生と死を分かつもの…未だ生きて中に入った者はいない」
「由乃は死んでない!あそこにいるだろ!」
「死と生の折り重なった状態にある。永久の死であり、永久の生。その死だけを切り離すことができれば、その者は永遠に生きてゆける。そして…宇宙のあらゆる生命も…」
怒りを露に、テイル=ボーン、イグ=ソードでヴァリレイへ攻撃を仕掛ける哀羽さん。
しかしその手からはアヴホースの力の表れである鎧が消え去り、代わりにヴァリレイの傍らで大きな影が立ち上がります。
「目覚めよ、アヴホース」
「闘争心こそが永遠の命への道…すべての命は戦い、殺しあいながら強くなる」
「どけって…言ってんだよぉ!!」
「さあ、命を見せて」
◯
玲へ向かいコーティング剤を噴霧するも、パイロットの消滅によりあえなく墜落、その海域にいた乃亜も巻き込まれ、絶望に覆われるサラディン号。
離脱しようにも、もはや逃げる場所は世界のどこにもありません。
そんな中、ガルナザルが重々しく口を開く。
「たとえ、世界が滅びようとも…闇に没しようとも…命は必ず輝く!」
「それは希望?それとも夢?」
「いや…真実だ!」
艦長の言葉に勇気づけられ、微笑を口元にたたえるクルーたち。
「勝てば人類の勝利、負ければ死」。樹もシニカルに唇を歪ませます。
「諸君らの命、このガルナザルが貰い受ける!」
浮上し、玲の居る渦の中心へと突入を仕掛けるサラディン号。
が、そこへ背後から魚雷群が殺到。発射源は燻京香の乗る艦。そしてその進路は…サラディン号と同じく渦の中心です。
◯
アヴホースの圧倒的な力と対峙する哀羽さん。
一方的にやられながらも反撃のアイバーキック(脚本準拠)を食らわせますが、効果は薄く、テイル=ボーンの原型と思われる尻尾によって締め上げられてしまいます。
「もっと…もっと戦うのです。戦って戦って、戦い抜く…それが伝承者の使命。あの者を永久の死から切り離しなさい。そうすれば、あるいはあなたは由乃をもう一度抱きしめられるかもしれません」
「…由乃…!待ってろ…よ…!!」
その左腕からガトリング、そして魚雷を出現させる哀羽さん。アヴホースに直撃するも逆に左腕を食い破られます。
「絶望…絶望…絶望…」
襤褸切れのように地面に転がされる哀羽さん。
そんな彼をヴァリレイは無情にも「戦いなさい」と見下ろす。
「戦えないのですか?」
「由乃…必ず助けるから…!由乃…!」
「絶望…絶望…絶望…絶望…今度の伝承者もまた、絶望しかくれぬと言うか…」
ボロボロの体を起こす彼に、どこからとも知れぬ声が飛び込んできます。
「解き放て、哀羽」
「狼騎!?」
「解き放て、力を」
「亜久里か!?」
「哀羽さん…寒い…寒いよ」
「!?冬音…」
「無数の影のひとつずつ…皆、別世界でのお前だ…そして皆、私に絶望しかくれなかった」
「もう戦えぬのならば、死になさい」
背後から襲いかかるアヴホース。
必死の形相で戦うネクロダイバー。
「絶望…絶望…絶望…皆、絶望しかくれない」
◯
消えていく人々、そしてそれでも諦めずに抵抗を続ける人類。ネクロダイバー。
その中心で、京香は滔々と呟く。
「玲…あなたに教えてあげることは、もっとたくさんあった。風の柔らかさ、山の美しさ、海の広さ。この地球の素晴らしさ。そして、人のあたたかさ…」
「だけど、私が語ったのは、世界の終わりと、人類の滅亡――あなたが知っていたのもこのふたつ。これは私の贖罪…そしてあなたに教えたい最後の言葉。それは、希望。人はね、希望を失わない限り生きていられるということ」
海面を突き破り、玲の中枢へと飛び込む艦。
「これが私の最後の――」
「玲…」
つづく
おまけ
これプリクラみたいでなんかウケる
by kaname1102
| 2010-11-07 21:19
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